Case対応事例
我が子よりもお世話になった孫へ財産を残す遺言のケース
『孫が全部面倒見てくれたんだから、当然ですよ。』
92歳になる女性の方のお孫さんから,公正証書遺言作成の依頼を受けました。司法書士は,依頼者からの聞き取りと,特に不動産の名義変更登記に関する専門的法律知識を生かし公正証書遺言書の原案作成を行うことができます。
遺言者は施設に入所中であり中々外出も難しいとのことで,お孫さんが事務所に何度か来て遺言者たる祖母の意思を聞き取り私に伝える形で遺言の内容を詰めていきました。
遺言は当然それを残す方の意思がきちんと反映されていなければなりませんから,遺言内容を詰めた後,私は遺言者が入所している施設に伺い,直接ご本人さんに遺言内容の確認をしました。
遺言者ご本人のお話では『私の娘はまだ存命中ですが,娘は私の世話はほとんどしてくれませんでした。でも,その娘の子である孫が全部面倒を見てくれましたので、遺産の全部を孫に渡したいと思っています。それが当然のことだと思いますから。』ということでした。
遺言で財産をもらう人を受遺者と呼びますが,もし受遺者が遺言者よりも先に亡くなってしまった場合に備えて予備的に次の順位の受遺者を選任しておくのが通常です。本件の場合も,この予備的受遺者を定めましたが,その方は受遺者であるお孫さんの妻の方でした。
お孫さんだけでなくその妻も,いつも施設まで来て,遺言者ご本人の身の回りの世話をしている方でした。なので,遺言者ご本人さんとしては,『孫が先に亡くなってしまってもお世話になった孫の妻へ財産を渡したい。』とのことでした。
当初,自筆証書遺言か公正証書遺言かで迷われていましたが,長文の自筆が難しいこと,紛失や偽造の恐れがあることから公正証書遺言として作成することとしました。
もし,今回上記の内容の遺言を作成していなければ,相続人である実の子である娘が相続人となるため,遺言者の「お世話になった方に財産をあげたい」という思いは叶いません。
また,遺言書があれば,共同相続人など他の親族との遺産分割協議や印鑑証明書などは不要のまま,不動産の名義の変更などの相続手続きが可能であるため,納得しない親族が居てもスムーズに所有権移転の登記(今回のケースでは遺贈による移転)を行えます。
遺言書がなければ,相続人間で遺産分割協議が必要となり,協議が整わない場合「遺産分割調停申立て」等の裁判所を介した手続きでなければ解決しないことになります。それか,遺産をそのまま放置することもできますが,子や孫の世代に権利が承継されていくため10年後15年後に下の世代の多数の方達が大変な思いをすることとなるためなるべく解決すべきと私は思います。