Case対応事例
亡くなる直前に,贈与で不動産の名義変更をしたケース
『孫に名義を変えるまで死ねません』
というお言葉が忘れられない案件になりました。
1.ご依頼内容
ホームページからご連絡を頂き,
「私の父が末期の癌で余命宣告されており,今日明日にでも亡くなってもおかしくない,と言われている状態です。父から,建物を建てる予定の私の娘(孫)へ,不動産を贈与し名義を変更する約束を前からしていたのですが今まで手続をしないままでした。そこで,吉川さんに急いでお手続きをお願いしたいのです。」
とのご依頼がありました。
2.ご本人さんの確認と,遠方のお孫さんの書類の準備
私は,まず本人確認と意思確認を行いました。所有権移転登記で名義を変更する場合,売主や贈与する人は自分の財産を失うため,「本当に贈与する意思があるのか」と「手続をしようとしている方本人からの依頼なのか」を確認する必要があります。
電話連絡をしていただいた方の父親が当事者であったため,幸い近くの病院で入院されていたこともあり,私は次の日には病院まで行き,病室にて意思確認と本人確認を行いました。その際保険証の写しも頂きました。ご本人さんは,90代で末期の肺がんから呼吸も厳しく,体を自由に動かすことも難しい状態でしたが,認知症等ではなく意識自体ははっきりされていました。
私と話すのもつらそうでしたが,お孫さんへ名義の変更をするまでは死ねないというお話を頂き,私はこの仕事は絶対に急いで行わなければならないと強く思い「しっかりお手続きをさせて頂きます」と言って握手をしました。
お孫さんが遠方の方であったため,私は高速でお孫さんの住民票等を急いで集めに走りました。
3.手続の終了と,ご依頼者の訃報
私は,書類等を全て整えてから,急いで法務局へ手続を行いました。数日後,登記が完了し新たに出来上がった,お孫さんの権利証(登記識別情報通知)を取りに行き,製本化しお渡ししました。
最初にお電話を頂いた娘さんからご連絡があり,父が「これでほっとした。安心した。」と言っていました,とお伝え頂きました。
それから,約1週間後,再び娘さんからご連絡が有り,「父が亡くなり葬儀も全て終わりました。本当にありがとうございました。」とのお言葉を頂きました。
ほんの10日前までは,私ともお話ができていた状態でしたので,こんなにも早く亡くなるとは思っておらず,本当に寂しい気持ちになりました。
司法書士の仕事とは,不動産や預貯金など故人が残された大切な財産を,次の世代に引き継ぎ生活を支えていく大事な仕事なのだな,と心から感じた案件でした。